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東京高等裁判所 昭和45年(行ス)22号 決定

抗告人 株式会社ホンリユー・コーポレーシヨン

相手方 横浜税関長

訴訟代理人 木村博典 外

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告人の抗告の趣旨は、「原決定を取り消し、相手方の抗告人に対する本件物件提出命令の申立は棄却するとの裁判を求める。」というのであり、抗告理由の要旨は、「本件提出命令申立の対象物件(抗告人の輸入申告にかかる書籍、アンドレ・デイーンズ著、SUN WARMED NUDES 一冊)は、抗告人の輸入申告にかかる同種の書籍三九二冊のうちの一冊であつて、他の同種の書籍とともに相手方の厳重な監視取締りのもとに保税倉庫に蔵置されており(関税法三一条、三二条、三三条参照。)、抗告人はこれらを随意に自己の支配に移すことのできる地位にないばかりでなく、いまだこれらを引き取つて現実に所持したこともないのである。したがつて抗告人がこれらの物件の所持者であるとはとうていいえないので、原決定が抗告人を所持者として本件物件の提出を命じたのは失当である。もし原審が抗告人に対し提出命令を出すことによつて本件物件の保税倉庫からの搬出が可能になるとの見通しのもとに抗告人を所持者としたものとすれば、提出命令によつて所持者を造出したも同様で論理が逆立ちしているというべきである。以上の理由によつて原決定は失当であるから、その取り消しと併せて相手方の提出命令の棄却を求めるため即時抗告に及んだのである。」というのである。

よつて、審按するに、

抗告人の輸入申告にかかる前記書籍三九二冊(以下本件書籍という。)は、現在、輸入手続未済の外国貨物として横浜市中区新山下町三丁目七番地七二および七七所在の東邦港運株式会社保税上屋に蔵置中であること、抗告人は本件書籍の海上運送人ステーツ・マリンラインズインコーポレーシヨンの代理人ステーツマリンインスツミアン エイジエンシー インコーポレーシヨンが発行した抗告人を荷受人とする船荷証券を入手していたが紛失したため、本件書籍の引渡を受けている海上運送人の代理店日本ステーツマリンエイジエンシーに対し船荷証券に代えて念書を差し入れ、荷渡指図書(三菱倉庫株式会社宛)の交付を受けていること、三菱倉庫株式会社は、前記海上運送人の代理店から本件書籍の寄託を受け、東邦港運株式会社に保管を委託して前記保税上屋に本件書籍を蔵置しているものであること、以上の事実は当事者間に争がない。

本件記録によれば、相手方は、本件書籍が関税定率法二一条一項三号の輸入禁制品に該当すると解しているが、本件訴訟(本件書籍収録の写真が右法案の所定物件にあたるが否かが争点となつている。)に関しては、本件書籍の検証のため本件書籍の提出命令を原審に申請し、かつ、抗告人が提出命令に基づき本件書籍を原審に提出するについては関税法三二条による一時持出の許可を与え、提出のために便をはかりこそすれ支障となる措置をとることはない旨を原審及び当審において確約していることが認められる。

そこで、以上の事実関係によれば、抗告人は本件書籍の占有者の地位にあり、しかも原審の提出命令があり次第、容易に、本件書籍の一冊を検証物として原審に提出できる地位状態にあることが認められるし、右認定を覆すに足る事実の主張立証はない。したがつて、原審は、民事訴訟法三三五条、三一一条、三一四条に則り本件提出命令を発することができるものであつて、原決定に所論の違法はなく、論旨は独自の見解に立つて原決定を非難するに帰し、採用することができない。

よつて、本件抗告は理由がないから棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 柳川真佐夫 後藤静思 平田孝)

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